ITコーディネータ協会の「ITコーディネータプロセスガイドライン Ver.4.0(PGL4.0)」は、デジタル社会で企業がその存在価値を高めていくための「実行基準(プロセス)」と「判断基準(基本原則)」を示しています。PGL4.0では、旧版の7つの原則から「10の基本原則」に再編されており、今回はその中から「基本原則8:戦略と実行を合わせる(戦略実行整合の原則)」について解説します。
原則の定義と背景
「戦略と実行を合わせる(戦略実行整合の原則)」は、「デジタル経営では価値実現を重視する。いつの間にか、戦略と実現された価値が遊離する事態は避けなければならない。経営戦略に沿った価値実現が目標通りに進んでいるかをモニターし、タイムリーに関係者に可視化する。経営環境変化に伴い価値実現に向けての制約事項も変化する。経営戦略と価値実現のインパクトからダイナミックに戦略や実現価値の見直しも視野に入れる」ことと定義されています(ITコーディネータプロセスガイドライン Ver4.0(PGL4.0)25ページより引用)。
この原則は、ITとデータが経営の根幹をなすデジタル社会において、経営戦略の策定だけでなく、その戦略が実際に生み出す「価値」が乖離しないよう、継続的に監視し、必要に応じて戦略自体を見直すことの重要性を強調しています。旧版のPGL3.1にも同名の原則が存在しており、デジタル経営においても変わらず、戦略と実行の整合性は企業の持続的な成長に不可欠な要素であると位置づけられています。
デジタル社会では、技術革新のスピードや市場の変化が加速しているため、一度策定した戦略がすぐに陳腐化する可能性があります。そのため、計画通りに進める「計画・実行型」のアプローチだけでなく、プロトタイプを用いた「仮説・検証型」のアプローチも取り入れながら、価値実現の状況を常にモニターし、戦略をダイナミックに調整していく俊敏性が求められます。この原則は、まさにこの俊敏な対応を可能にするための判断基準となります。
ITコーディネータの実践
ITコーディネータは、企業がデジタル経営を成功させるために、この「戦略と実行を合わせる(戦略実行整合の原則)」を以下のように実践に落とし込む必要があります。
- 価値実現の進捗を継続的にモニターする:
- 経営戦略で定めたKGI(重要目標達成指標)やKPI(重要業績評価指標)に基づき、デジタル経営の目標とする価値が計画通りに実現されているかを継続的に監視します。
- 「モニタリング&コントロール(CB-3)」(109ページ)の活動を通じて、パフォーマンスデータを収集し、分析・評価することで、戦略と実行の間の差異を明確にします。
- 情報をタイムリーに可視化し共有する:
- 価値実現の状況やパフォーマンスデータを関係者(経営者、デジタル経営推進者、開発リーダー、運用リーダー等)にタイムリーに可視化し、共有します。
- 異なる実行主体(例えば、価値実現サイクルC2の各プロセスとデジタル経営戦略プロセスP2)間での情報共有を促進し、常に認識を揃えるように支援します。
- 戦略と価値実現の動的な見直しを促す:
- 経営環境の変化や、価値実現プロセスで得られた新たな制約事項や気付きに基づいて、戦略や実現すべき価値のダイナミックな見直しを経営者に提言します。
- 特に、ITシステム導入後でも「当初の戦略が誤っていたり、外部環境の変化に伴い導入の時点には古びた戦略やITシステムになっていたりして、利用されない事態が生じる可能性」を考慮し、戦略的観点でのリスク評価を促します。
- フィードバックループを機能させる:
- 価値実現サイクル(C2)の「提供価値検証プロセス(P6)」(90ページ)から得られたフィードバック(例えば、顧客からのフィードバックやサービスレベル検証結果など)が、「デジタル経営実行計画プロセス(P3)」(62ページ)や「デジタル経営戦略プロセス(P2)」(40ページ)へ適切に還元されるよう、仕組みの構築と運用を支援します。
- これにより、サイクルを素早く回し、デジタル経営戦略の更新が価値実現の活動に遅れることなく、効率的かつ効果的な変革が可能となります(58ページ)。
- 共通言語の活用とリーダーシップの支援:
- PGL4.0自体を共通言語として活用し、多様なステークホルダー間の共通認識と意思疎通を深めます。
- 経営者や各リーダーが「思い」や「方針」を的確に伝え、関係者の理解と共感を得る「リーダーシップの原則」を実践し、戦略と実行の整合性を組織全体で実現できるよう支援します。
「戦略と実行を合わせる(戦略実行整合の原則)」は、変化の激しいデジタル社会において、企業が描いた未来(戦略)と、実際に生み出す価値(実行)が乖離することなく、常に連動し、持続的な成長を実現するための要となる原則です。ITコーディネータは、この原則を深く理解し、実践することで、企業のデジタル経営を力強く支援していくことが求められます。
次回は、「基本原則9:人中心の持続的な成長へ(学習と成長の原則)」について解説します。
PGL4.0で新しく整理された「デジタル経営を成功に導く10の基本原則」全体概要はこちら。