ITCAのAI活用ガイドはどう変わったかー「中小企業向けAX推進ガイドライン」の変更点解説(全3回)

ITコーディネータ協会が公開しているAXガイドの変更点解説 itc

ITコーディネータ協会は、2026年9月28日に、AI活用ガイドラインを更新し、新たに「中小企業向けAX推進ガイドライン」として発表しました。前回3月の初回更新以来6ヶ月が経過し、今回二度目の更新ということになります。

中小企業向けAX推進ガイドライン – 本連載では、3月版と9月版の本文を比べながら、今回の改訂が中小企業の経営者と、その支援に携わるITコーディネータにとってどのような意味を持つのかを、全3回で読み解きます。ITCAの変更点概要を手掛かりに、実際に追加・見直しされた判断基準や手順まで確認し、現場の仕事にどう結び付くかを考えます。

第1回は、AXの考え方とAI活用の三つの方式、企業の成熟度の捉え方を取り上げます。
第2回は、現場で作ったAIの仕組みを継続して使うための運用と管理を扱います。
第3回は、AI活用の経験を会社の知識に変える方法と、研修・伴走支援を担うITコーディネータの役割を考えます。

第1回 AX推進ガイドラインで変わった中小企業のAI活用の考え方

ITコーディネータ協会(ITCA)は2026年9月28日、「中小企業向けAX推進ガイドライン」を公開しました。従来の「中小企業向けAI活用ガイド」の初版が2025年9月30日、AIエージェント関連を拡充した最終改訂は2026年3月26日。約半年ぶりの改訂で、名称も変わりました。ITCA公式案内

3月版と9月版を読み比べると、今回の焦点は、AIを継続的に活用できる会社の仕組みをどう設計するかにあると読めます。使い方の紹介に加えて、誰が判断するのか、現場で作った仕組みをどう運用するのか、経験を会社の知識へどう変えるのかが、より具体的になっています。

ただし、3月版が単なるツールの解説書だったわけではありません。既に経営戦略、AIエージェント、リスク管理、組織学習を扱っていました。今回の変化は、それらをAXという目的のもとでつなぎ直した点にあります。

AXで変える対象を明確にした

AXはAI Transformationの略です。9月版では、AIをてこに、顧客価値、業務プロセス、意思決定、組織知、人材能力を継続的に変革するものと捉えています。AIの利用件数だけでなく、顧客に届ける価値や、会社の仕事の進め方がどう変わったかを見る考え方です。

例えば、問い合わせの回答案をAIで早く作れるようになったとします。そこで確認したいのは、作成時間に加えて、回答の品質、顧客の問題が解決するまでの時間、担当者同士で知識を共有できるかです。回答を速く作れても、確認作業が増えたり、対応の知識が特定の人にしか残らなかったりすれば、改善の余地があります。

こうした視点を反映し、第1章の企業能力の整理には、従来の「速度」「精度」「創造」に「組織知」が加わりました。個人の工夫を、担当者が替わっても使える会社の能力へ育てることが、改訂を読む一つの軸になります。

比較箇所:旧版1.1、1.3.1、2.1.3/新版1.1、1.3.1、3.4.2。

現場が作る小さな仕組みを独立した方式にした

分かりやすい変更は、AI活用の方式が2分類から3分類になったことです。

方式仕事での使い方
ツール活用型既製のAIを使い、文章の下書きや情報整理などを行う。
カスタマイズ・内製型現場や部門が、業務用のAIアシスタント、小規模アプリ、自動処理などを構築・変更・運用する。
システム開発・業務統合型AIを業務システムや顧客向けサービスへ組み込み、連携やシステム全体の運用を管理する。

独立したのは、真ん中のカスタマイズ・内製型です。3月版にも、カスタムAIやコード生成の紹介はありました。9月版では、それらを使って現場が作る仕組みに、専用の進め方と運用責任が与えられました。

例えば、営業担当者が問い合わせを分類し、社内の資料から回答案を作る仕組みを組んだ場合です。作れることに加えて、誰が内容を確かめ、変更し、不具合に対応するかを考えます。現場の業務知識を反映しやすい利点と、作成者だけが理解する状態になるリスクを、同時に扱っています。

3つの方式は順番に上る階段ではない

今回、特に注意して読みたいのは、3つの方式を成熟度の序列にしないという説明です。成熟度とは、ここでは組織がAIを適切に使い、経験から学び、改善する能力の現在地を指します。

9月版は、成熟度が高い会社でも既製ツールを使い続けてよく、経験の少ない会社が外部支援を受けて重要なシステムを導入する場合もあるとしています。同じ会社の中で、文書作成は既製ツール、部門内の集計は内製、受発注との連携は統合型という組合せも可能です。

選択の基準も、投資額や製品名だけでは決まりません。扱う情報、利用する人、AIに任せる操作、失敗した場合の影響、保守できる体制を確認します。安価なサービスでも顧客へ誤った情報を自動送信すれば影響は大きくなります。費用が小さいことと、管理を省けることは同じではありません。

比較箇所:旧版3.3、5.4.1/新版3.3.1–3.3.6、5.3.5。

成熟度の最上位も書き換えられた

成熟度は従来と同じ6段階ですが、最上位のレベル5の記述が変わりました。3月版は、新規事業やビジネスモデルを生み、業界のイノベーションをリードする姿を示していました。9月版は、蓄積した知識を再利用し、環境変化に応じて活用方法や業務・組織を継続的に見直す姿を示しています。

さらに、新規事業やビジネスモデルの創出自体を、成熟度の必須条件にしないと明記しています。これは、既存事業を大切にする中小企業にとって意味のある変更です。新しい事業を始めるかどうかとは別に、今の事業でAIを適切に使い、学び直す力を高められます。

経営者と支援者が最初に確認したいのは、自社がどの方式へ進むべきかという順位ではありません。どの仕事を改善し、どの価値を生み、その後も誰が見直せる状態にするかです。9月版の分類と成熟度は、その話合いを進めるために使うと役立ちます。

比較箇所:旧版3.2.1/新版3.2.1–3.2.2、3.4.4。成熟度の解釈は本文比較に基づく筆者の考察。

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