2026年4月、IPA(情報処理推進機構)は「デジタルスキル標準Ver.2.0」を公開しました。
今回の改訂で目につくのは、「データマネジメント」が新設され、DX推進スキル標準が従来の5類型から6類型になったことです。しかし、中小企業のDX支援という立場から見ると、類型が一つ増えたこと以上に気になる点があります。
それは、必要な役割を社内だけで満たせない中小企業が、外部人材をどのように活用すればよいのかという問題です。
デジタルスキル標準Ver.2.0で何が変わったのか
DX推進スキル標準の6類型は、次のとおりです。
- ビジネスアーキテクト
- デザイナー
- データサイエンティスト
- データマネジメント
- ソフトウェアエンジニア
- サイバーセキュリティ
新設されたデータマネジメント類型には、データスチュワード、データエンジニア、データアーキテクトの3ロールが置かれました。これに加えて、ビジネスアーキテクトとデザイナーのロール再定義、AIの実装・運用に関するスキルの追加、ロールごとのスキル重要度の見直しなどが行われています。
データやAIを活用する前提として、データの品質、整合性、利用ルールを管理する役割を明確にしたことは、妥当な改訂だと思います。詳しい改訂内容は、IPAの「デジタルスキル標準Ver.2.0を公開」で確認できます。
6類型は「6人を採用する」という意味ではない
デジタルスキル標準では、一人が複数のロールを兼ねることや、複数人で一つのロールを担うことも想定されています。したがって、6類型をそれぞれ別の専任者で埋めなければならないわけではありません。
これは特に中小企業にとって重要な点です。
しかし、柔軟に兼務できると説明するだけでは、実際の人材不足は解消しません。従業員数が限られる企業に対して、データアーキテクト、デザイナー、ソフトウェアエンジニアなどを社内に置くよう求めても、現実には難しい場合が多いでしょう。
問題は類型の数ではなく、必要な機能を「社内の誰が担い、どこから外部人材に参加してもらうか」という設計が、標準の中で十分に示されていないことです。
サイバーセキュリティでは外部専門家に言及している
6類型の中に、サイバーセキュリティも含まれています。
この類型については、異常監視、原因究明、ペネトレーションテストなどを「外部の専門事業者に委託することが現実的」と明記されています。社内の担当者には、外部事業者とのコミュニケーションや、日常的なセキュリティ対策を実践する力が求められるという整理です。
これは中小企業にとっても現実的な考え方です。ただし、この記述はVer.2.0で初めて加わったものではなく、旧Ver.1.2にも存在していました。Ver.2.0のDX推進スキル標準と、旧Ver.1.2の双方で確認できます。
一方で、ビジネスアーキテクト、データマネジメント、ソフトウェアエンジニアなどについては、中小企業が外部人材をどう組み合わせるかという説明は見当たりません。外部人材の活用を類型横断で扱う考え方には、まだなっていないように見えます。
IPAは大企業しか念頭に置いていないのか?
そう断定するのは、やや言い過ぎかもしれません。デジタルスキル標準は、企業規模や業種を限定せずに利用できる汎用的な標準として作られています。
それでも中小企業の立場から読むと、複数の専門人材を社内に配置できる企業の分業図に見えやすいことは確かです。
大企業であれば、社内のDX部門、情報システム部門、事業部門、データ部門などの間で役割を割り当てられます。ところが小規模な企業では、経営者、現場責任者、事務担当者が複数の役割を兼ねながら、ITベンダーやコンサルタントの支援を受けて進める形が一般的です。
この実態に合わせるには、6類型の説明に加えて、次のような情報が必要です。
- 企業規模別の役割分担例
- 社内に残すべき役割と、外部へ委ねられる役割の整理
- 外部人材を含むDX推進チームの構成例
- 支援機関、ITベンダー、外部人材との連携方法
外部人材は周辺政策では認識されている
ただ国は外部人材の必要性を、全く認識していないわけではなさそうです。
他のDX関連文書では、認識されているものもいくつか存在します。
たとえば「デジタルガバナンス・コード3.0」は、DX人材の確保方法として、計画的な育成や中途採用だけでなく、外部アドバイザー・パートナーの活用や外部からの出向も挙げています。
また、経済産業省の「DX支援ガイダンス」では、地域金融機関、地域ITベンダー、地域のコンサルタントなどが、中堅・中小企業の成長を見守る「主治医」として伴走することを期待しています。その具体例には、ITコーディネータや中小企業診断士も含まれています。
つまり、政策全体として外部支援の必要性を認識していないわけではありません。課題は、その考え方がデジタルスキル標準の類型・ロールと十分につながっていないことです。
私自身、5類型だった時期のIPAの講演後アンケートで、中小企業は必要な専門人材をすべて社内に抱えることが難しく、ITコーディネータなどの外部人材を標準の中に位置づける必要がある、という趣旨の意見を送りました(こちらの記事に記載しています)。おそらく同じ問題意識を持ち、同様の意見を伝えた人は少なくなかっただろうと思います。
しかしながらVer.2.0を読む限り、外部人材活用が類型横断の考え方として取り入れられたとは言いにくい状況です。したがって、この論点は改訂によって解決したというより、今後も検討が必要な課題として残っています。
中小企業は6類型を「組織図」ではなく「機能一覧」として使う
現時点で中小企業がデジタルスキル標準を活用するなら、6類型を採用人数や組織図として読むのではなく、DXに必要な機能の一覧として読むのが現実的です。
社内に残すべきものは、たとえば次のような役割です。
- DXで何を実現するかを決める
- 経営課題と業務上の優先順位を決める
- 自社のデータや業務ルールに責任を持つ
- 投資、リスク、導入結果について最終判断する
一方、外部人材の活用が考えられるのは、次のような領域です。
- 経営者・現場へのヒアリングと課題整理
- 必要なスキルと不足している機能の可視化
- 要件整理、ITベンダー選定、導入支援
- データ、AI、システム、サイバーセキュリティの専門支援
- 社内人材の育成と、導入後の定着支援
ITコーディネータは、6類型のいずれか一つを代行するというより、経営者、現場、ITベンダー、各分野の専門家をつなぎ、社内外の役割分担を設計する立場にあります。
まとめ――6類型を社内だけで満たす必要はない
デジタルスキル標準Ver.2.0では、データマネジメント類型が加わり、データ・AI活用を支える役割が明確になりました。これは重要な前進です。
しかし、中小企業にとって本当に重要なのは、類型が5つか6つかではありません。必要な機能を確認したうえで、自社で担う部分と、外部人材に支援してもらう部分をどう組み合わせるかです。
中小企業のDXは、すべてを内製することでも、すべてをITベンダーへ任せることでもありません。経営判断と業務の主体性は社内に残しながら、足りない専門性を外部人材で補う。その設計図としてデジタルスキル標準を使うことが、現実的な活用方法ではないでしょうか。
今後のデジタルスキル標準には、中小企業を想定した社内外の役割分担例や、ITコーディネータを含む支援人材との連携モデルが加わることを期待します。
