中小企業のDXは“組み合わせ力”が鍵 ~DX人材5類型をムリなく味方につける方法~

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先日、DXやAIに関する講演を拝聴しました。その中で、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)による、「DX人材5類型」の説明がありました。

IPAは、DXの推進に必要な人材を次の5つの役割に整理しています。

  • ビジネスアーキテクト
  • デザイナー
  • データサイエンティスト
  • ソフトウェアエンジニア
  • サイバーセキュリティ

DXの全体像を俯瞰しやすい枠組みであり、担当者が担う役割を理解するうえで非常に優れた視点です。


IPA「デジタルスキル標準における人材類型」
出典:
「DX推進スキル標準」

大企業と中小企業では、前提となる体制が異なる

講演では、この5類型を体現する人材として、いくつかの事例が紹介されました。
ただ、事例企業は以下のようにいずれも超優良な上場企業で、育成も採用も十分にできるような環境に身を置かれている方々でした。

  • 航空業界(ANA)
  • 情報サービス業界(リンクアンドモチベーション)
  • デジタル系製造業界(トヨタ)

こうした企業であれば、5つの役割を社内で分担し、専門部署でDXを進められます。
しかし、中小企業の状況はまったく異なります。

  • 組織規模が小さい
  • 一人が複数の役割を兼務する
  • 専任の担当者を複数配置する余力がない

この現実を踏まえると、「5類型をすべてそろえる」ことを前提にすると、中小企業はDXを始める前に行き詰まりかねません。


中小企業に必要なのは、“そろえる力”ではなく“組み合わせ力”

私が強く感じたのは、
中小企業にとってのDXは、5つの役割をそろえることではなく、どう組み合わせるかが本質である
という点です。

中小企業においては、デジタルスキル標準(以下、DSS)の5類型は、以下のような問いを立てるための“地図”として使うべきだ、というのが一つの考え方になると思います。

  • どの視点が自社に不足しているのか
  • どこを外部と組み合わせれば前に進めるのか
  • どの役割を内部で担い、どれを外部に委ねるのか

DXの最大課題として「人材不足」が挙げられる以上、“補完しながら前に進む”設計こそが現実的なアプローチです。

言葉を補えば、上記統計でみられる「人材不足」に対しては、大企業では確かに育成・採用が第一の選択肢になりますが、中小企業では如何に外部人材を含め、機能を補完していくか、また如何に外部から人材面の支援をしていくか、が課題となるということです。

この点について、IPAサイトに掲載されている、最新版(2024年7月改定)のデジタルスキル標準 ver1.2の全文を見てみましたが、p.156に人材サービス会社の活用、という記述があった以外では、現状は特段IPAあるいは経済産業省としての支援策として、認識されてはおられないように感じました。


DSSの5類型を実務で活かすために

講演後のアンケートでは、現場支援の立場から、今回の内容をより実務に結びつけるための視点をIPAへフィードバックとしてお伝えしました。

共有したポイントは次の通りです。

  • 中小企業が5類型を社内でそろえるのは構造的に難しいこと
  • 一人が複数の役割を兼務するのが一般的であること
  • 経営と現場をつなぐ外部人材の存在が不可欠であること
  • 大企業や自治体と中小企業をつなぐ「人材プール」の整備が有効であること
  • ITコーディネータなど既存の専門家との連携強化を進めてほしいこと
  • 「5類型をそろえる」発想から、「どう補い、どう借りるか」を設計できる支援が必要であること

これらは、DSSの価値を“現場で使える標準”へ近づけるための、追加の視点としてお伝えしたものです。
講演や資料自体は体系的で示唆に富んでおり、そのうえで「現場との橋渡し」という観点を深めたいという意図でした。


中小企業DXの核心は、“補完しながら進む設計”

中小企業には、大企業とは異なる強みがあります。

  • 意思決定の速さ
  • 現場との近さ
  • 外部の知識を柔軟に取り込める構造

こうした特性を活かしながら、
「自社で担う部分」と「外部と組む部分」をどう設計するか
が、中小企業DXの核心になります。

DSSの5類型は、その設計の出発点として非常に有効です。
補い、借り、組み合わせながら前に進む。
この“組み合わせ力”こそが、中小企業がDXを実行可能な形にする鍵だと感じています。


参考リンク(2025年11月18日 時点)

※DSS:デジタルスキル標準(Digital Skill Standards)

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