ITコーディネータ協会の「ITコーディネータプロセスガイドライン Ver.4.0(PGL4.0)」は、デジタル社会で企業がその存在価値を高めていくための「実行基準(プロセス)」と「判断基準(基本原則)」を示しています。PGL4.0では、旧版の7つの原則から「10の基本原則」に再編されており、今回はその中から「基本原則10:データ重視の意思決定へ(ファクトベースの原則)」について解説します。
基本原則の定義と背景
「データ重視の意思決定へ(ファクトベースの原則)」は、「仕事のあらゆる場面でデータ収集、可視化、正しい評価を意識する。変化が激しい現代では、経験や勘による判断は通用しなくなっている。デジタルをフルに利活用し、データを重視した判断をする体制に変える必要がある。事業の成果(顧客価値)やリスクを可視化することは正しい判断につながる。」と定義されています。(ITコーディネータプロセスガイドラインVer4.0(PGL4.0)26ページより引用)
この原則は、現代の急速に変化する経営環境において、これまでの経験や勘に基づく意思決定ではもはや通用せず、データとデジタル技術を最大限に活用した、客観的で事実に基づいた意思決定が不可欠であることを強調しています。PGL4.0では、社会が「データ駆動型のデジタル社会」へと本格的に移行していることを前提としており、この原則はその中で企業が価値を実現するための重要な指針となります。
デジタル社会では、様々な活動の結果をデータとして取得し、それを分析・評価することで、企業は新たな機会や課題に俊敏かつ柔軟に対応できるようになります。事業の成果(顧客価値)やリスクをデータに基づいて可視化することで、より正確な現状把握と、それに基づく適切な判断が可能になります。これは、組織の戦略実行能力や変革能力を示す指標である「デジタル経営成熟度(16ページ、及び38ページ)」の向上にも密接に関わります。
この原則を実践するための具体的な活動として、「デジタル経営共通基盤(CB)」の要素である「モニタリング&コントロール(CB-3)」が重要な役割を果たします(109ページ)。モニタリング&コントロールは、プロセスのパフォーマンス指標を定期的に監視・分析し、目標達成に向けて改善していく活動であり、組織学習(CB-5、118ページ)へのインプットデータにもなります。
ITコーディネータの実践
ITコーディネータは、企業が「データ重視の意思決定」を実現するために、この原則を以下のように実践に落とし込む必要があります。
- データ収集と可視化の仕組みを支援する:
- 企業が事業活動のあらゆる場面でデータを収集し、そのデータを「可視化」する仕組み(レポート機能など)の導入と活用を支援します。特に、評価に必要なデータを可能な限り自動的に収集し、デジタルデータとして蓄積・管理できることが望ましいとされています。
- 「提供価値検証プロセス(P6、90ページ)」において、ITサービス利活用状況や業務工程、提供価値に関する情報収集を支援します。
- パフォーマンスデータの分析と評価を支援する:
- 「モニタリング&コントロール(CB-3、109ページ)」活動を通じて、収集したパフォーマンスデータを客観的に分析し、改善領域や是正措置領域を特定できるよう支援します。
- 目標達成度を測定するための「KGI/KPI」などの「パフォーマンス指標」の設計と、それに基づいた評価を支援します。特に、定性的な情報だけでなく、恣意性を排除するために定量データを取得し指標とすること、そして先行指標の活用を促します。
- 経営環境の変化に対応するために、競合他社や業界先進企業との比較データを収集することの重要性を伝えます。
- データに基づく意思決定への移行を支援する:
- 経営層や従業員が、経験や勘に頼るのではなく、データに基づいた判断ができるような「体制」への変革を促します。
- 分析結果から導かれる「是正措置」を講じるための意思決定プロセスを支援し、必要に応じてプロセス改善やリソース配分の変更、追加トレーニングなどを提言します。
- 「提供価値検証プロセス(P6、90ページ)」で得られた検証結果を、経営目標の達成状況や現場からの気づきとして「デジタル経営実行計画プロセス(P3、62ページ)」や「デジタル経営戦略プロセス(P2、40ページ)」にフィードバックするサイクルを支援します。
- 組織学習との連携を促進する:
- パフォーマンスデータ(モニタリング&コントロール)が組織学習(CB-5、118ページ)のインプットとなることを踏まえ、データから得られた知見が組織全体で共有・応用され、継続的な改善につながるよう支援します。
「データ重視の意思決定へ(ファクトベースの原則)」は、単にITシステムを導入するだけでなく、データを企業の「羅針盤」として活用し、変化の激しいデジタル社会を生き抜くための企業体質を構築する上で不可欠な原則です。ITコーディネータは、この原則を深く理解し、企業がデータに基づいて迅速かつ正確な意思決定を行えるよう、多角的に支援していくことが求められます。
ここまでで、新しいPGL4.0で取り上げられた10の基本原則について説明してきました。
次回はITコーディネータ関連のお役立ちリンクについてご紹介します。