財務指標の使い方<生産性編>:労働生産性と資本生産性

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お客様企業の財務諸表を分析するとき、「生産性」の指標は人や資本がどれだけ効率的に成果を生んでいるかを確認する重要な観点です。
本記事では、労働生産性資本生産性 を取り上げ、さらに分解式を用いて「労働装備率」「有形固定資産回転率」「付加価値率」に掘り下げて解説します。


労働生産性

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労働生産性 = \frac{付加価値}{従業員数} \; (円/人)
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・定義:従業員一人あたりが生み出す付加価値の大きさを示す。
・見方:
 - 高い場合 → 少人数で高付加価値の成果を出せている。
 - 低い場合 → 余剰人員や非効率な業務プロセスが含まれている。
・実務ポイント:
 - プロセス改善・自動化・標準化
 - 高付加価値商品の比率向上
 - 人員配置や教育投資の適正化

➡ 「人がどれだけ価値を生むか」を示す基本指標。

👉ここに出てくる「付加価値」については、日銀や中小企業庁を始め各種組織がいろいろな計算方法を提示しています。文献によっても揺れがありますので、次回の記事でまとめて解説します。


資本生産性(有形固定資産ベース)

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資本生産性(有形) = \frac{付加価値}{有形固定資産}
$$

・定義:機械・設備・建物といった有形固定資産1円あたりの付加価値創出力。
・見方:
 - 高い場合 → 設備投資が有効に稼働し、付加価値を生んでいる。
 - 低い場合 → 遊休設備や投資過剰の可能性。
・実務ポイント:
 - 設備稼働率の向上(段取り替え短縮、OEE向上など)
 - 設備投資の回収計画の妥当性
 - 稼働率と価格戦略の両立

➡ 「設備がどれだけ価値創出に貢献しているか」を測る指標。

※OEE:設備総合効率(Overall Equipment Effectiveness)。生産設備について、最大生産能力に対する実際の稼働率を表す=生産設備の効率を表す指標。


資本生産性(総資本ベース)

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資本生産性(総資本) = \frac{付加価値}{総資本}
$$

・定義:総資本(総資産)1円あたりの付加価値創出力。
・見方:
 - 高い場合 → 在庫・債権を効率的に管理し、資本を有効活用できている。
 - 低い場合 → 資産が遊休化、または効率的に使われていない。
・実務ポイント:
 - 在庫や売掛金の圧縮
 - 非中核資産の売却やリース化
 - 事業資源の再配分

➡ 「会社全体の資産活用効率」を示す指標。


労働生産性の分解(有形固定資産ベース)

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\frac{付加価値}{従業員数} = \frac{有形固定資産}{従業員数} \times \frac{付加価値}{有形固定資産}
$$

(労働生産性 = 労働装備率 × 資本生産性(有形))

・解釈:一人あたりの設備投資額(労働装備率)と、その設備でどれだけ価値を生むか(資本生産性(有形固定資産ベース))の掛け算で決まる。
・実務ポイント:
 - 装備率は十分でも資本生産性が低ければ効率は上がらない
 - 設備投資の順序性(まず稼働率改善→次に投資拡大)を意識する

➡ 「人と設備の最適な組み合わせ」を考える指標。


資本生産性(有形固定資産ベース)の分解

$$
\frac{付加価値}{有形固定資産} = \frac{売上高}{有形固定資産} \times \frac{付加価値}{売上高}
$$

(資本生産性(有形) = 有形固定資産回転率 × 付加価値率)

・解釈:設備1円あたりでどれだけ売上を稼げるか(回転率)と、その売上からどれだけ付加価値を残せるか(付加価値率)の掛け算。
・実務ポイント:
 - 回転率が高いが付加価値率が低い → 低単価販売や原価高騰の影響
 - 付加価値率が高いが回転率が低い → 設備稼働率不足や余剰設備

➡ 「量(回転)と質(率)」を同時に改善するヒント。


労働生産性の総資本分解(全社視点)

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\frac{付加価値}{従業員数} = \frac{総資本}{従業員数} \times \frac{売上高}{総資本} \times \frac{付加価値}{売上高}
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(労働生産性 = 労働装備率(総資本ベース) × 総資本回転率 × 付加価値率)

・解釈:人あたりの資本装備 × 資本の回転効率 × 売上の質、の3因子で説明できる。
・実務ポイント:
 - 装備率:投資余力と人員配置のバランス
 - 回転率:在庫や債権の効率化
– 付加価値率:価格戦略とコスト管理

➡ 「会社全体の人と資本の効率」を総合的に把握できる。


まとめ

  • 労働生産性は「付加価値 ÷ 従業員数」で測り、労働装備率 × 資本生産性 に分解可能。
  • 資本生産性は「有形固定資産回転率 × 付加価値率」に分解できる。
  • 総資本ベースでは「装備率 × 回転率 × 付加価値率」に展開し、改善ポイントを特定できる。

➡ 生産性分析は「数値を分解して改善余地を探す」ためのツールとして活用できる。

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