~「下請け」から「機能の提供者」へ~
前回は、日本の製造業が直面している「守りのDX(業務効率化)」の限界と、そこから脱却するためのビジョンとして「FBM(Flexible Business and Manufacturing)」の概要をお伝えしました。
従来の「ピラミッド型サプライチェーン」の中で、親会社の仕様通りに安く作るだけでは、もはやジリ貧です。2030年に向けて私たちが目指すべきは、企業が対等につながり合う「ボール(球体)モデル」の世界です。
しかし、こう思われる方も多いでしょう。 「ボールモデル? 概念はわかったけれど、ウチの工場で具体的に何が変わるんだ?」
第2回となる今回は、日本電機工業会(JEMA)の『FBMホワイトペーパー』を読み解きながら、FBMの具体的な仕組みと、そこで中小企業がどう振る舞えば勝てるのかを解説します。
会社を「名前」ではなく「機能」で定義する
FBMの世界観を理解する上で最も重要なのが、「FBMサービス(ボール)」という考え方です。
現在、取引先を探すとき、私たちは「〇〇製作所」という「会社名」や、「自動車部品メーカー」という「業種」で検索します。しかし、FBMの世界では、企業を「機能(何ができるか)」で定義し直します。
JEMAの定義によれば、この「ボール(FBMサービス)」は、以下の情報(属性)を持ったカプセルのようなものです。
• カタログ情報(誰でも見られる):
◦ 「板金加工ができる」「在庫保管ができる」「設計ができる」といったサービスの種類。
◦ 所在地、認証取得状況、資本金などの基本情報。
• サービス能力情報(原則、外からは見えない):
◦ 「1時間あたり何個作れるか(単位能力)」
◦ 「稼働にかかる電気代やCO2排出量はいくらか(稼働コスト)」
◦ 「現在のラインの空き状況はどうか」
あなたの会社を、単なる「下請け工場」ではなく、「特定の機能(板金、塗装、組立、物流など)を提供するサービスプロバイダ」として捉え直してください。 このボールたちが、「リポジトリ」と呼ばれる巨大なデータベースに登録されている状態が、FBMのスタート地点です。
「必要な時」に「必要な相手」とつながる仕組み
では、このボールたちはどうやってつながるのでしょうか。 ここで登場するのが、「コーディネータ」という役割です(人間の場合もあれば、AIエージェントの場合もあります)。
従来の製造業では、一度決まったサプライチェーン(系列)はめったに変わりませんでした。しかしFBMでは、ビジネスの目的(ミッション)に合わせて、コーディネータがリポジトリの中から最適なボールを検索し、その都度、新しいチェーン(鎖)を組み上げます。
これをわかりやすくイメージするために、『FBMホワイトペーパー』に記載されている「ユースケース03:BCPに基づくサプライチェーン再構築」の例を見てみましょう。
【ケーススタディ:災害時の緊急連携】
あるメーカー(事業主)が、板金部品を調達しようとしています。しかし、普段発注しているA社が災害で被災し、工場が停止してしまいました。従来なら、復旧を待つか、電話をかけまくって代替先を探すしかありません。
FBMの世界では、次のようなことが瞬時に行われます。
1. 検索: コーディネータ機能が、リポジトリから「A社と同じ加工能力を持つボール」を検索します。
2. 照会: ヒットした近隣のB社、C社に対し、「1,000個の部品を、3日以内に作れますか?」というリクエスト(照会情報)を一斉送信します。
3. 回答: B社、C社のシステム(ボール)は、自社の稼働状況(サービス能力情報)を瞬時に計算し、「B社:可能です。コスト〇円」「C社:半分なら可能です」と回答します。
4. 成約: 条件の合うB社と、即座に一時的な契約を結び、製造データが送られます。
ここで重要なのは、B社やC社が「普段はライバルかもしれない企業」だということです。 FBMは、固定的な系列関係を超えて、能力(属性)さえ合致すれば、誰とでも即座につながれる仕組みを提供します。これが「フレキシブル(柔軟)」たる所以です。
「仕様」ではなく「属性」で勝負する
この仕組みの中で、中小企業が選ばれるためには何が必要でしょうか。 それは、自社の強みを「属性情報(Attribute)」として数値化し、公開することです。
従来の下請け構造では、親会社から「図面(仕様)」を渡され、「これをいくらで作れるか」というコスト競争になりがちでした。 しかしFBMでは、発注側は「コスト」だけでなく、「納期」「CO2排出量」「品質実績」など、多様な「評価指標」でパートナーを探します。
• 「急ぎだから、コストは高くても『納期』が早い工場を選ぼう」
• 「環境配慮型製品だから、『CO2排出量』が少ない工場を選ぼう」
もし、あなたの工場が「最新の省エネ設備を入れている」とか「夜間無人稼働で短納期対応ができる」といった強みを持っているなら、それをデータ(属性)として発信することで、価格競争に巻き込まれずに選ばれる可能性が高まります。
つまり、FBMとは、中小企業にとって「下請けからの脱却」をシステム的に支援する土俵なのです。
課題は「つながるための言葉」
夢のような話に聞こえるかもしれませんが、これを実現するためには大きな壁があります。それは「言葉の壁」です。
ボール同士がつながり、自動的に見積もりや製造指示をやり取りするためには、お互いのシステムが「同じ言葉(データ形式)」で話さなければなりません。 しかし現状は、A社の生産管理システムとB社の工作機械は、メーカーも違えばデータの形式もバラバラです。
JEMAのレポートでも、FBM実現のためには、国際標準(OPC UAなど)との連携や、属性情報の標準化が必要であると述べられています。しかし、中小企業が自力で高価な国際標準対応システムを導入するのは現実的ではありません。
ここで、前回の予告にもあった「救世主」が登場します。 最新の「生成AI」技術です。
バラバラな「現場の言葉」を、AIがいかにして「世界標準の言葉」に翻訳し、中小企業の古い機械をFBMのネットワークに参加させるのか。 次回、第3回では、日立産機システムなどが提唱する「Talkative Products(おしゃべりな機械)」というコンセプトを軸に、技術の最前線に迫ります。
(第3回へ続く)
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【参考文献】
• 一般社団法人 日本電機工業会「FBMホワイトペーパー Flexible Business and Manufacturing」(2020年)
• 一般社団法人 日本電機工業会「2019年度版 製造業2030」(2020年)
• 一般社団法人 日本電機工業会「FBMホワイトペーパー サマリ版」(2020年)
